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教員Aその2

「金は出せんなぁ」
 予想通りの親父の返事。でも、なんとかならないか。
 私は次の日、ラックスという会社に電話した。以前、大学の掲示板に新入社員募集の張り紙を見た記憶があった。その横には宝塚歌劇団専属ピアニスト募集の張り紙もあった。芸大の音楽学部の新卒者への募集など無きに等しい。
「あー、京都芸大ですか、音楽学部?担当者に代わります」
 ラックスは大阪に会社。アンプ専門のオーディオメーカーである。
「惜しいですね。例年だと絶対採用してましたが…。今年は募集していないんですよ」
 ふうむ。ただひとつの希望であったラックスに断られてはしかたがない。

「先生、なんとか就職しますので、その給料から毎月、月賦で…、あきませんか?」
「いいわよ。もちろん、いいわ。で、どこに就職するの?」
「あのぅ、まだ、これから探すんですが…、そんなんでもよろしい?」
「いい。いい。見つかるといいわね」
 教授の名は、下村和子。飛びきりの楽観主義者であった。
「ううん。きっと見つかるわ。Aくん、器用だもの」
 ピアノ科で一番の不器用な私に器用とは。

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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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