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グラスの雫№5 真鶴その30

 それから約半年後、11月、記念すべき第1回目の仕込みに藤枝氏は参加した。最初は黒麹で造る萬膳。蒸留器が稼動する時の強烈な印象。ドッ、ドッ、ドッと杉の木でできた蒸留器は地鳴りの音を立てる。床が割れるのでは…、藤枝氏は本気で思った。山小舎の蔵の床はきれいに化粧されたコンクリート。そのコンクリートにヒビが入りそう。パイプからは勢いよく、蒸気が噴出。まるで生きている機関車のよう。藤枝氏は目を丸く開けて木樽蒸留器を見続けた。
「藤枝さん…」
 万膳氏の右手には透明なグラス。出来立ての原酒が入っている。
「え。いいんですか?」
「味、見てください」
 万膳氏からわたされたグラスの液体は輝いている。キラキラと。中のエキスがクリスタルのような輝きを持っている。藤枝氏はグラスを持った手ばかりではない。全身が震えた。また、泣いてしまう。泣いたらあかん。グラスをゆっくり口元に持っていく。それが精一杯。飲めなかった。洗米、芋洗い、不眠不休で管理した麹。走馬灯のように頭をよぎる。
「ん…?どうぞ」
 宿里杜氏がうながしてくれる。藤枝氏は二人の顔を見た。うなずいている。目をつむった。舐めた。あれ?もう一度舐めた。
「これ、40度あります?」
「いやー、もっとあるでしょ。45度…」
 藤枝氏はうなってしまった。45度ならスコッチと同じくらい。しかし、それに比べて荒々しさがない。上品という言葉が陳腐なくらいスムース。5年以上熟成しているスコッチよりもはるかに柔らかい。しかも、蜂蜜のように甘いのだ。
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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