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バー物語(フィクション)№303

 パワーショベルが西の壁を破った。入り口横の飾り窓が引きちぎられた。
 『つぶれた喫茶店から窓をもらってきたぞ』
 ガンちゃんが得意げに取り付けてくれた。
 古道具屋で買ったスツールが飛び出す。1脚4000円。浅いブラウンのレザー、背もたれつき。しまった。公団の担当者に椅子などは撤去しとけと言われてたなぁ。ま、いいか。
 快晴。初秋の夕暮れ。
 ほこりの向こうにL字のカウンターが見えた。
 『失敗は許されねーからな』
 西田氏が顔を引き締めて電動ノコで切ったのは3年前。吾妻さんはカウンターを切り取って甲風園の新店舗に持っていった。私は滅びを選んだ。伝統があるわけでもなし、思い出を引きずるのは女々しい。
 東の壁が崩された。のんちゃんが隙間風が寒い寒いとガムテープを張りまくった壁。地震に耐えた3坪のバーはあっけなく瓦礫の山と化した。
 『村上先生が迷って来れなくなってしまうなぁ』
 太陽が赤い。1997年9月。バー物語完

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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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  • Author:higemaster
  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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