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バー物語(フィクション)№99

 餃子は一般的な普通の味だった。サムの個性と店の内装からかなり変わった餃子が出てくると思っていたのだが。
 「どや、マスター」
 サムは私の正面に座った。
 「はい。とってもおいしいです」
 「そうか、うまいか。くくく」
 「?」
 餃子になにか秘密があるのか。サムがくくくと笑うのが気になる。
 「何か特別な物でも入ってるんですか」
 「いいや。なんも」
 サムは新しいお客様が入ってきたので席を立って厨房へ向かった。餃子の秘密はまた知る機会が来るだろう。その時までのお楽しみにしよう。
 入り口が開いて老人がゆっくり入ってきた。70才くらいか。歯が少し出ていて背が曲がっている。足も悪そうだ。顔にあまり生気がなかった。水槽の前に座った。水槽の前には小さな低いカウンターがある。そこで何やらナイフで刻みだした。小さな生魚のようだ。そのあたりに不気味な空気が漂っている。映画で見るような一シーン。刻み終わってから水槽に少しずつ入れだした。あまり元気がなかったように見える熱帯魚が急にターボエンジンがかかったようにピチピチと動き出した。水面から飛び出す者もいる。老人はその様子を何の表情もなく眺めていた。
食べるべきえさがなくなると熱帯魚の動きも少しずつ落ち着いてくる。だるそうに立ち上がって老人は外に出て行った。今の老人はサムの身内の方か。
 雑然と並んだ色のあせた雑誌、たくさんの絵葉書、熱帯魚と老人、サムの個性。こんな店、見たことがない。一度この店に入ったら強烈な印象を持って客は帰っていくに違いない。たとえこの店がなくなっても長く人の心にとどまるだろう。動きの鈍くなった熱帯魚を遠目で追いながら思ったものだった。
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テーマ : 連載小説
ジャンル : 小説・文学

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  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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