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バー物語(フィクション)№53

 3階で息が切れた。あと1階。階段は絨毯がひきつめられて豪華。バーサンクスもゴージャスな内装だろう。大きな木のドアーを開けると正面に六甲山が見える。六甲のふもとの明かりがきらきらとゆれている。夜景をバックに多数のボトルが手前に並べてある。ホテルのようなバー。静かなジャズが流れている。客は誰もいなかった。パリっとしたバーテンダーが静かに微笑んでいる。私はボロボロの服装。飲めるのか。相手が断りやすいように少しずつ近づいていった。また脚の長い椅子だ。
 「いらっしゃいませ」
 バーテンダーは静かにゆっくりと口を開く。野球帽とは対照的だな。思いながら深く椅子に座る。ん!足が届かない。下を覗き込むとつま先の10センチ下に金属の足置きがあった。
 「マスター」
 「はい?」
 「足が届かないんだけど」
 かなりの男前だ。まだ微笑んでいる。
 「申し訳ございません」
 笑顔を崩さない。
 「設計ミスでは?」
 「はい。そう思います」
 私の目を静かに見ていた。笑っている。馬鹿にして笑っているのではない。微笑が売りなのか。私ならあなたの足が短いからでしょ、と切り返しそうだ。このバーテンダーをいじりたくなってきた。
 「服が汚れているんだけど」
 「お仕事ですか。遅くまで大変ですね」
 「大工仕事。この店はおねーちゃんはいないのか」
 「この下がラウンジになっております。ご案内いたしましょうか」
 同じテンションで静かに話す。まだ笑っている。
 「いや。何が飲める?」
 バーテンダーはメニューをよこした。あれれ。アラスカが1000円。マティーニが1500円。二つのカクテルの材料費はほぼ同じはず。
 「アラスカ、マティーニ、どうして?」
 バーテンダーはすぐにこちらの質問の意図がわかったようだ。
 「気合です」
 引き締まった響きが言葉に含まれた。初めて微笑を忘れている。
 「ではマティーニを」
 すこぶるうまかった。気合か。勉強になった。名前を聞いておこう。
 「大畑と申します」
 きっと大物になるだろう。野球帽と微笑み君。二人に出会えたのは収穫だった。11月3日が終わった。
 
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テーマ : 連載小説
ジャンル : 小説・文学

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  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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