小説・菜その168
菜は店が始まるまでに何回も試作した。特にピザ。酵母いろいろ変えて発酵具合を研究。味も研究。伸ばし方はナポリ風にするのか、ローマ風にするのか。具は何を乗せたらよいか。今までの自分のレパートリーも見直す。田舎風パテは自信があったが、ここの食材でどのような味に変わるか。オーブンの具合はどうか。菜は気になったことを捨てれない。
「マスター、どうでしょうか?」
何回も試食されているマスター氏。いいかげんうんざりしている。
「うんうん。これでいきましょう」
早く終わらせたいと思うマスター氏はいつも同じ返事。
「前回とは塩の量を変えたのですが、そのあたりはいかがでしょう?」
「うん。そうだね。少ししょっぱくなったような気がします」
「いえ、塩は減らしたんです。それをしょっぱく感じるという事は…。それは香辛料に問題が…」
「あ、いやいや。そう言えば塩辛くないような気もしてきた…」
味がわかる、というのは記憶力である。判断できる舌を持つのは必要最小限条件であるが、そこに以前の味を記憶していないと意味がない。ブラインドテイストできる人間はこの記憶力に長けているのである。
マスター氏、その才能に恵まれていなかったと言えるであろう。
「菜、まかせるわ。自分で決めて。ね。わしにもうたよるな」
マスター氏、すたすたと厨房を出ていく。
「マスター、どうでしょうか?」
何回も試食されているマスター氏。いいかげんうんざりしている。
「うんうん。これでいきましょう」
早く終わらせたいと思うマスター氏はいつも同じ返事。
「前回とは塩の量を変えたのですが、そのあたりはいかがでしょう?」
「うん。そうだね。少ししょっぱくなったような気がします」
「いえ、塩は減らしたんです。それをしょっぱく感じるという事は…。それは香辛料に問題が…」
「あ、いやいや。そう言えば塩辛くないような気もしてきた…」
味がわかる、というのは記憶力である。判断できる舌を持つのは必要最小限条件であるが、そこに以前の味を記憶していないと意味がない。ブラインドテイストできる人間はこの記憶力に長けているのである。
マスター氏、その才能に恵まれていなかったと言えるであろう。
「菜、まかせるわ。自分で決めて。ね。わしにもうたよるな」
マスター氏、すたすたと厨房を出ていく。
スポンサーサイト