先生は続ける。
「味って何かな。たとえばアルコール98度のスピリタス、40度のルイ13世、14度未満のムートン。どこに味がある?」
「よくわかりませんが、アルコールの中に溶け込んでいるのでしょうか?」
「はずれ。味はね、アルコール以外のところにあるんだよ。もちろんアルコールにも味がある。でも、純度が高いとすぐに蒸発。味わえないね。では、これを水で割ったらどうなるか」
先生はスピリタスをミネラルウオーターで割った。
「飲んでみて」
理科の実験をしているようだ。水で薄めたスピリタス飲んでみてびっくりした。
「甘いです」
「ふふ。甘いでしょ。でも甘いだけ。純粋ってそんな感じかな。単純明快。薄めると味が出る。演奏も似てないかな」
先生が何を言いたいか、なんとなく見えてきた。
「大天才が作った曲を凡人が演奏して、凡人が点数つける。それ自体、間違ってると思う。でもね、点数はつけることが出来るよ。優秀かそうでないか」
「じゃー、100点の演奏って…」
「それを目指すのはいい。でも100点をつける資格があるのはその曲を作った作曲家だけだと思うな」
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