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小説・菜その49

「あら、早いわね、菜ちゃん」
 いつも4時くらいに帰っていた菜。今日は給食全部時間内に食べたのですぐに帰れた。
「おかあさま、あのね、今までね、残されて…。だまっていてごめんなさい」
 母に謝らなければならない。学校の帰り道ずっと思っていた菜。
「ええ、給食でしょ。知っていましたよ」
「……」
「本橋先生に聞きました。1年生の給食が始まってすぐに学校に呼ばれました。給食を食べるのが遅いので放課後に食べてもらいます、っておっしゃってたわ」
「ごめんなさい」
 菜はびっくりした。おかあさまは知っていた。恥ずかしい。
「ふふ、菜ちゃん、食べるのが遅かったのではなくて食べれなかったんでしょ。あなたは小さい時から口に合わないものはペッペッと吐き出していたもの。しかたないわね」
「でも、もう大丈夫です」
「そう、よかったわね。一つおとなになったのね」
『おとなになった…』
 菜は母の言葉に不思議を感じた。おとなになるって今まで出来なかったことが出来るようになること。菜は早くおとなになれたらいいなー、とぼんやり思った。そうだ、おとなになったらもっとおかあさまのお手伝いが出来る。
「おかあさま、晩ご飯作ります」
「菜ちゃん、まだ早いわよ。宿題ないの?」
「宿題します」
 菜はニッコリ笑って真っ赤なランドセルのふたを開けた。
 菜が笑った。久しぶりに見る娘の笑顔。
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小説・菜その48

『臭いがいやなら息を吸わなかったら…』
 菜は考えた。これならいけそう。ジュンくんがいないのなら自分で全部食べるしかない。みんな食べている。美味しいって言ってる。わたしは変?
 思い切って口の中に入れる。息を止める。噛む噛む。飲み込む、飲み込む。牛乳はない。水も無い。菜は走る。トイレの引き戸を開ける。蛇口をひねる。水を飲んだ。鏡を見た。ジュン?振り返る。誰もいない。顔を洗った。ハンカチで顔を拭く。ゆっくり教室に戻る。席に着く。もう平気。わかった。コツがわかった。菜は何でも食べれる気がしてきた。大丈夫。放課後残らなくてもいい。

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小説・菜その47

 口を大きく開ける。目を瞑る。スプーンの感触。口に入れる。上唇で食物を舌の上に。スプーンを口から離す。目を開ける。臭い。肉が臭い。すっぱいものが胃から沸いてくる。両手でアルマイトの器をつかむ。吐き出す。泣く。菜は泣いた。やっぱりダメだ。
 本橋先生、菜が食べようとしているのをジッと見ていた。菜は1年生の時、ハナから食べるのをあきらめていた。放課後ゆっくり食べるつもりだったのだと考えていた。2年生になって給食の時間内で食べようとしている。しかも泣きながら。
「小西さん、今までのように放課後ゆっくり食べたら?無理しないで」
 本橋先生、菜に近づいて言う。しかし、冷めた給食を授業後食べさせる、それが残酷なのだが本橋はわからない。
『放課後…、もうジュンくんはいない…』
 だから必死で食べようとしている菜。
「はい。そうします」
 うなずいて本橋先生、教壇に戻った。
『もう一度最初から』
 菜は再びスプーンを取った。

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小説・菜その46

「はい。おかあさま、絶対会えます?」
 返事の変わりに大きく首を縦に振る和子。

『いつか会える』
 母の言葉を信じる菜。少し気が楽になった。
 そして給食の時間。放課後食べてくれるジュンはもういない。牛乳は飲める。ゆっくりゆっくり。緊張しながら左手で持つアルマイトでできた器。
 菜はつぶやく。今日はカレーですね。カレーのにおいは好きです。ジャガイモと肉が入ってます。何の肉でしょう?豚さんですか?馬さんですか?牛さんですか?鶏ではないですね。菜が色々考えているうちに数分経つ。右手にスプーンを持つ。口に近づける。

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小説・菜その45

 勝手口。鍵はかかっていない。菜はもう帰っている。開ける。バタバタと走ってくる。菜が和子の顔を見る。目がまん丸。必死の形相。今日一日、気が気でならなかったのだろう。
「ジュン君はね、お引越しをされました」
 和子はおぶっている忠哉を布団に寝かせた。菜は横に立つ。
「だから、学校に来ないのです」
「……」
 菜は母を見続ける。にらんでいると言ったほうが正しい。
「菜ちゃん、人は出会いもあるし別れもあります」
「はい…」
「今回は、さようならを言えなくて寂しかったわね」
「はい」
「ご家族に事情があってクラスのみんなにもご挨拶をできなかった。しかたなかった。でも…」
「でも?」
「生きている以上、いつかは会えます」

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  • Author:higemaster
  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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