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教員Aその146

 弾き始めたのはベートーヴェンのピアノソナタ第1番の第1楽章。弾き終わると違う生徒が同じソナタの第4楽章。続いてベートーヴェンのピアノソナタ第5番の第1楽章。ドビュッシーの子供の領分、ショパンのエチュード、バッハの平均律。連弾までしだした。いい加減にストップかけないとエンドレスになるなー、と席を立って何気なく外を見るとドアの外に黒山の人だかり。
「もう、そろそろやめようか。40分も弾いてるし、表に人がいっぱい集まってる」
「もう少し…」
 生徒達はまだまだ弾こうとする。
「じゃー、あと1曲だけ」
 言って、私は道路に出た。人が集まる理由がわかった。電柱にスピーカーが設置されている。ピアノの音をマイクで拾って流しているのだ。あわてて店内に戻った。
「おい。恥ずかしい。道路に音がながれているぞ。ストップストップ」
 不完全な演奏を平気で弾く生徒達。穴があったら入りたい。しかし本人達はまるで羞恥心が無いようだ。
「聴いてもらえるのならもっと…」
「終わり終わり。はい。終わり」
 決してレベルが高いとはいえない日乃日乃学園の音楽科。ではあるが一応演奏家を目指す子供達。露出に関しては一般人の感覚とはまるで違う。
 生徒さんたち、一層の躁状態でホテルへの岐路に着いた。今回の体験はたいへん楽しかったようである。やれやれ、これでゆっくり寝れるわ。ふっ、これが甘かった。
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教員Aその145

 念を押しながら行動する。このクラスの生徒に学んだ事だ。こちらからの一方的な命令はまず聞かない。へそ曲がりが多く、自分の気持ちを大切にする生徒達。
「ピザ。どう?交差点の向こうに見えるよ」
「賛成。賛成の反対の反対の賛成」
 素直にハイと言えないのか。返事一つがにぎやかである。
 入り口を入るとテーブルがたくさんあった。それぞれに座ってドリンクを注文する。お腹がいっぱいなのか、ピザを注文する生徒はいなかった。スタンディングのカウンターもある。そのカウンターで私と山野先生はビールを飲む。
「あ、先生、ビール飲んでる」
 私達が何を飲むのか興味があるのか。
「いんや。これはビールではありません。発泡麦茶です」
「うそうそ、ビール。お酒飲んでる」
 何故、修学旅行中、飲酒は禁止と知ってるのか。おつむが弱いのか、かしこいのかわからない。
 店内の隅っこにアップライトピアノが置いてあった。どこのメーカーかな。目を凝らして見ていると生徒達の目にもとまったようだ。スタスタと一人の生徒が近づいた。蓋を開けて椅子に座る。
「ん?やめとけ。これ。弾いたらあかん」
「いいですよ。結構ですよ」
 カウンターの中の店員がすぐに許可をした。
「すみません」
 私は成り行きにまかせることにした。

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教員Aその144

 金沢スカイホテルから繁華街の香林坊まで南へ約1キロである。10月の夜7時。もう日は暮れている。生徒25人を引き連れて歩くのはやっかいだが、念には念をいれたので、列を乱すことなく着いて来る。ただ、大声でしゃべるのはやめようとしない。子供も大人も女性ってなんでこんなにしゃべることが豊富なんだろう。ゆっくり歩いて20分。
「さ、戻ろうか」
 香林坊の交差点で私は言った。
「先生、お店入りたいです」
「そう、そう」
 またまた大合唱。と、ここまでは計算通り。
「君たちみたいにやかましい高校生が25人も入るとお店に迷惑がかかるでしょ。ハイ、帰ろう」
「おとなしくしますからー」
「お行儀良くしますからー」
 遊ぼうとする時のこの連中の連帯感はすごい。感心する。お見事と言って良い。
「ほんまやな。やかましくせーへんな」
「はい。ハイ。はぁーい」

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教員Aその143

「君たちが行くのか?他の子は?」
「行くのは私達だけです。でも他に行きたい人がいたら一緒でいいです」
「では、山野先生と一緒に行きなさい」
 山野先生を呼んで引率を頼んだ。
「えー、私が?A先生も来て下さいよ」
「私は、他の生徒の面倒を見ないといけないでしょ」
「だったら全員で行けばどうですの?」
「全員で行ったら、まとまりないし、全然言う事聞かないし、めちゃくちゃになります。やっぱりやめときます。ハイ。中止。街に出るの禁止です」
「言う事ききます。絶対に勝手なことしません。ねー、そうやんねー」
「そうそう、きちんと行動しますから…、先生」
「いや、信用できない」
 生徒達が輪になって私達を囲みだした。ほぼ全員が私を見ている。
「誓えるか」
「はい。団体行動を乱しません」
 委員長が言う。
「他は?」
「きちんとします」
 ほぼ全員が合唱のように、ハモった。
「どうでしょう、山野先生」
「これだけ言ってるのですから、大丈夫でしょう。全員で出ましょ。A先生が先頭で私が後ろを歩きます」

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教員Aその142

 10月16日木曜日の朝、日乃日乃学園を出発。バスは天井にシャンデリアがついている豪華な大型バス。添乗員は営業で来た玉田氏。学校からは副担任の山野先生と私。合わせて28名。二人がけの椅子に1人ずつ座る非常に贅沢な旅になった。
「カラオケしたい」
 バスが動き出してすぐに一人の生徒が叫んだ。
「カラオケ、カラオケ」
 全員が大合唱する。
「先生、か・ら・お・けー」
「わかった。やかましい。わかったから静かに歌え」
 マイクをとって歌いだす。なんと、うまい。音楽科だから当然か。私にも順番がきたが断った。歌うと権威が地に落ちる。絶対に私の歌を聴かせてはならない。
 歌い続けて三方五湖に着く。ひとりの生徒がバスに酔った。私とその生徒は岸に残って残りの皆は湖の観光遊覧船に乗った。
 夕方、金沢のスカイホテルに到着。食事が終わって自由時間。
「先生、街に出てもいい?」
 予想通り繁華街に繰り出そうとする生徒が出てきた。
「あかん、あかん。そんなん。事故が起こったらどうする?だめダメ駄目」
「えー、このホテルでジッとしとくのー?退屈です」
「テレビ見たら?本、読んだら?」
「外に行きたいです」
 IQ140の生徒4人に囲まれた。

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  • Author:higemaster
  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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