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教員Aその122

 父親は続ける。
「先生はいったい…」
 私はすぐにしゃべりだした。
「退学届けは決められた用紙があります。取りに来てくださいね。はんこ押して終わりです。提出は郵送でかまいません。すぐに受理されて、はれて高校に行かなくてもすみます。よかったね」
 私はスクッと立ち上がった。
 翌日。彼女は学校に来た。制服を着て、ペッタンコのかばんを持って。放課後になっても用紙を取りに来なかった。どうやら退学は止めにしたらしい。一件落着と思いきや、こういうのは伝染するのか。今度は家出。しかも予告電話が学校にあった。
「先生。わたし、今から家出します」
「はぁー?」
 雑音の多い職員室の電話。私は、きつく受話器を耳に当てた。
 
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

教員Aその121

「やめたいのでしょ、高校。やめたら?」
「はー?」
 母親がこちらの顔をのぞきこむ。
「高校中退。よろしいやん。大学中退、かっこいい。勉強よりももっと素晴らしいものを見つけた、と思ってくれる。実際、大学中退して活躍している人、たくさんいますよね」
「あのー、この子は高校をやめたいと…」
 母親が不安そうな顔で言う。
「高校も一緒でしょ。違うかな。あ、違いますね。ちゃうちゃう。ちゃいますわ。高校中退っちゅうたら、万引きしてつかまったとか、煙草吸うてるのばれたとか、喧嘩して相手を怪我させたとか…。うん。ようするにまだ若いので退学はかわいそう、なので、自主的に学校やめなさい勧告。で、中退なったと世間では思うんでしょうなー。その先は…」
 私はここで間をあけて天井を見た。生徒も母親もつられて天井を見ている。父親だけはこちらをにらむように視線を送っていた。
「その先、まー、家でいるのもなんやし、働きに出ますわな。んでも、高校中退、やとってくれるかなー。どんな職業あるかなー。あ、そうだ、覚せい剤の売人、うんうん、あるある。後は、新聞配達。これは健康的でよろしい。朝早くおきて自転車チリンチリン。似合ってるよ。でも、通学が遠いと言うキミには向いてないか。そうだ、キミ、顔いいし、スタイルいいし、モデルさんにいけるかもよ。モデルさん、売れたらいいけど売れないモデルさん、悲惨だろうね。ま、ヌードですか。裸のモデルに転落。転落って言いましたけど、裸のモデルに誇りを持ったら転落ではないですしね。でも、またまた売れない裸のモデルさん、どうかなー、春でも売る?売れるよ君なら、ぜったい…」
「先生」
 父親が大声を出した。

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

教員Aその120

 チャイムを押して玄関に入る。迎え出たのは父親。食事中だったのか爪楊枝をシーハーシーハーしながらこちらを見下ろす。
『なんじゃこのおっさん。態度ワルー』
「お嬢さんの事で…、はぁ」
 池山先生がそう言うと、二人は上がって右手の応接間に通された。座って待ってると生徒と母親が入ってきた。親子3人と我々2人が対面する形。
「この子ね、学校やめたいって言うんです」
 母親が言った。そして続ける。
「私はね、続けて欲しいんですけど…」
 けど…、で終わってしばらく沈黙が続く。父親は相変わらず爪楊枝と遊んでいる。
「どうしてやめたいと思うんですか?」
 池山先生が生徒に質問した。
「面白くないんです。授業もレッスンも」
「はー、それで?」
「友達もあんまり、それに…、学校遠いし…」
「はー…」
 お得意の池山節。はー、の連発。私はキョロキョロと室内を観察していた。アップライトピアノが置いてある。その上にはフランス人形。専門に音楽を志す人間のピアノが応接間とは。たとえ声楽志望でもそれはない。家庭の無理解もこの事から推測できる。音楽は花嫁になるためのアクセサリーぐらいにしか思っていないのか。ピアノの移動が難しいのであれば、この部屋を生徒の勉強部屋にすべきだ。
「A先生はどう思ってですか?」
 ぼー、と考え事をしている時に池山先生に急にふられた。

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

マリア・ジョアン・ピリス ピアノ・リサイタル

2009年4月25日兵庫県立芸術文化センターチ大ホール 
ショパン(グラズノフ編):エチュード 第19番 嬰ハ短調 op.25-7 (チェロとピアノ)
ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 op.58
リスト:悲しみのゴンドラ S.134 (チェロとピアノ)
ショパン:2つのマズルカ
ショパン:チェロ・ソナタ ト短調 op.65
ショパン:1つのマズルカ

 こだわりの演奏会。ステージ以外の明かりはすべて消す。音を立てるな、拍手もするな。最初にホールから注意があって、プログラムにも書かれていました。何が始めるのかと期待しましたが…。
 はっきり言って期待はずれ。チェロのパヴェル・ゴムツィアコフは歌えるのですが、そんなもんだろうのレベル。知り合いの上村昇、河野文昭の方がはるかに上。ピリス先生の演奏も自己満足的、マスターベーション的でつまらない。彼女達はショパンをセンチメンタルと女々しさをデフォルメし過ぎ。
 私は、ショパンはエネルギッシュで男っぽい芸術家ととらえている。前半でホールを出ました。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

教員Aその119

 6月も終わろうとする頃、一人の生徒が学校に来なくなった。歌科の生徒。華奢な体にかわいい顔立ち。男女共学ならすぐにボーイフレンドが出来そうな子だ。しかし通学かばんはペッタンコ。おとなしい性格だが不良っぽい行動をとろうとするグループに所属する。背伸びして自分をワルに見せるタイプ。休んで4日目の放課後…。
「家庭訪問。よろしい?」
 池山先生が、連続欠席をする生徒の家に行って様子を見るという。それは、担任の私が主任にお願いするのが筋。池山先生に言われて反省した。
 家庭訪問はあらかじめ、池山先生が家に連絡をとっていたようだ。それとも、家のほうから来てくれと言われたのか。池山先生は彼女達が1年の時の担任だった。父兄達は私が若くて頼りないので、元担任の池山先生と頻繁に連絡を取っていたのかもしれない。担任なんて楽ちんと思っていた私の裏で、池山先生がせっせと私のするべき仕事をこなしていたのでは…。池山先生運転のセドリックの助手席でそう思った。

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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  • Author:higemaster
  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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