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教員Aその77

 私は更に近づいた。洗っているのは足の指のようだ。水は少しオレンジに染まっていた。
「怪我したんか?」
「あ、先生…」
 彼女は極端に口数が少ない。
「怪我?」
 もう一度たずねた。
「いえ、豆がつぶれて、何回もつぶれるんです」
「ふーん」
 豆か、たいしたことないな…、思いながらもう一度足の指を見た。ズル剥け。
「おい、ひどいじゃないか。保健室行け。早う…」
「いえ、いいんです。それに、夏休み、保健室閉まってます」
「そうだったっけ…」
 私は消毒するよう、うながした。
「水道の水で大丈夫です。慣れてます」
 こんなにしゃべる彼女は初めてだ。高校生ばかりのところで、試合に出るたった一人の中学生。その環境だからあまりしゃべれなかったのか。
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教員Aその76

 体育館には誰もいなかった。私は大声を出した。反応無し。一応、中をぐるっと回って確認して鍵を閉めた。
「森先生、いませんでした。鍵、かけました」
「あ、そう。熱心に練習してたので声をかけずに帰ってきたんだけど…」
 熱心に…。そう、本当にバスケットボール部の連中は一生懸命練習する。効率が悪いから上手くならないのか、練習方法が間違っているので効果が出ないのか、試合の作戦の組み立てが出来ていないので負け続けたのか。まぁ、すべて当てはまるんだろう。
 片山先生のテニスの練習を見てから帰ろうと職員室を出た。運動場を横切っていると水飲み場で足を洗っている生徒がいる。
『あれは、バスケットの…』
 高校生の試合に度々レギュラーのように出ていた中学生。
『あぁ、あの子か』
 彼女だったら一人で体育館で練習していたかもしれない。
「やぁー」
 聞こえないのか振り向きもせずまだ足を洗っている。

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

教員Aその75

 私が素人と言うことがばれてから、OG達はあまり応援に来なくなった。来ても2、3人。しかも試合が終わるとサッサと帰っていった。結局、リーグ戦は3戦全敗。しかもリーグ入れ替え戦も負けてCリーグに落ちた。
「3年生は今日でクラブ活動は終わり。夏休み中でもあるし、中学生と高校1、2年生は明日、月曜日は1日休んで、火曜日からまた、練習再開しましょう」
 私は、入れ替え戦で負けた後、いつものように短いコメントを言って解散した。
『ふっ。やっと終わった。やれやれ』
 私は、全敗に対して、責任もあまり感じずに帰路についた。

「Aさん、体育館閉めに行ったら、バスケット部、使ってたで。後で閉めといてくれる?はい、これ」
 森先生が私に体育館の鍵を渡した。練習は休みにしろと言った月曜日である。私はクラブ活動に関係なく、夏休み中も毎日学園に来ていた。ピアノの練習。癖のものだと思う。
「あれれ、おかしいな。なんでかな」
「クラブとは違うかもしれないな。一人だけ、練習してた。はよ帰さな、電車、間に合わんで」
 一人だけ?はて、誰か。私は急いで体育館に向かった。

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教員Aその74

「新卒ですよ。大学出て、すぐ日乃日乃学園に就職しました」
 OGがお互いの顔を見合っている。
「監督、22才ですか?」
「はい。22才と6ヶ月」
「なにー、そしたら、うちらより年下か」
「お嬢さん方。私より年上なんですか?」
 おばさんに見えているので、年上はわかっていた。が、生まれながらのサービス精神でお世辞を少し混ぜたのだが…。
「40前後かと思ったわ。なんや、年下か」
 バカ丁寧に接してくれていたのは監督と言う立場よりも年上に敬意を表していたらしい。老け顔というのは得するのか損するのかわからない。
「先生、ひょっっとして、バスケットも素人さんですか?」
「ぴんぽーん。正解」
「……」
 あきらかに、皆さん、がっくりきていた。しかも、呼び名が監督から先生に格下げされた。

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教員Aその73

「監督はどのような経歴をお持ちで?大学でされていたんですか?」
 そら、来た。一番いやな質問。
「いえ、大学では…」
「では、高校で?インターハイ?」
 インターハイって、私は背がちんちくりん。見てわからんかなー。バスケットなんて知らないおっさんだって。
「はー、高校ねー」
 確か高校時代にバスケットボールは触ったことがあるような気がしてきた。
「中学校では?」
「はー、中学校ねー」
 私はオウム返しをしてはぐらかそうとした。
「で、日乃日乃学園に来られる前は?」
「いえ、ここが初めてです」
「え?は・じ・め・て?」
 どういうわけか、初めてという言葉に全員が反応した。
「ええ、初めてですよ」
「では、違う職業をなさってた?実業団?」 
 なんでやねん。なんで、そっちへ行くねん。日乃日乃学園のバスケットボール部ってそんなに名門やったんか。実業団でバスケットしていた人が顧問になるような所だったんか。

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  • Author:higemaster
  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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