藤田氏がしゃべるのは…。他にお客さまがいない時に限られる。自分の事を話されることはまずなかった。たいていが私に対しての質問だった。
「泉さん、天才とはなんでしょう?」
前振り省略。たいてい、藤田氏は核心から入ってくる。
『天才』。魅力的な言葉だ。スーパーマンに等しい。勉強の天才、スポーツの天才、音楽の天才…。
「時間ではないでしょうか」
「スピード?」
「はい。まずはスピード。普通の人間、もしくは秀才レベルの人がこなす仕事を10分の1以下の時間で仕上げてしまう。しかも完璧に」
「なるほど…。完璧な仕事を、ようするに躊躇や試行錯誤がないのですね」
「ええ。言い換えれば仕事をこなす量も半端ではなくなる」
「で、それらの仕事も記憶している?」
「ええ。忘れられないのでしょうね。記憶しなければという意識もないはずです」
「たとえば?」
「思いつくのでは、身近なピアニストにルービンシュタインがいます」
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テーマ : 自作連載小説
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