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バー物語(フィクション)№228

 構内放送後、待つこと2分。来た。長尾さん。工場の制服なんだろう、白い上下に白い帽子。急ぎ足で近づいてきた。
 「あ、マスター、どうしたん?」
 いぶかしげと言うより会えてうれしいというような笑みを浮かべている。人がいいんだろう。根っからの善人なのかもしれない。しかし、けじめはけじめ。
 「長尾さん。出入り禁止。理由、約束反故。以上」
 きわめて事務的に申し渡した。長尾さんはいったい何のことやらというようにポカーンとしている。
 「え?おれ?杉浦?」
 「両方です。連帯責任。せっかく手打ちに持っていけたのに、私はきのう、大恥をかきました。では…」
 きびすを返してすぐ工場を出た。いやなもやもやが胸いっぱいに広がった。
 『くそっ』
 長尾さんの笑顔。事務室の前でうれしそうに笑った笑顔。思い出してははきそうになった。
 『しかたない、しかたない』
 お経を唱えるように何度もつぶやいた。
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

バー物語(フィクション)№227

 2,3分待って背広を来た恰幅のよい男が現れた。
 「私に何か…」
 ご丁寧にも名刺を渡してくれた。取締役と書いてある。違う。この男ではない。
 「失礼ですが、あなた以外に長尾様はおられませんか。この会社でお勤めと伺ったのですが」
 目を離さずに睨むように話した。男はしばらく首をかしげてからうなずいた。
 「事務長、ラインの子にいなかったかな」
 男は奥のデスクに声をかけた。
 「ああ、確か、いましたね」
 「工場に一人、同姓の社員がいます。では、私はこれで」
 男は急いで戻っていった。ラインの子?1000人を超えるであろう社員の一人の名前を取締役が覚えている。すごい会社だな。感心してしまった。
 「あのう、どうしましょう…。長尾は作業中なんですが…」
 困った。早く済ませたい。出来るかどうか聞いてみることにした。
 「工場に放送設備はないんでしょうか?放送で呼んでいただけたら…」
 女性事務員は助けを求めるように事務長のほうを見ている。事務長は大きくうなずいた。

 

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バー物語(フィクション)№226

 鳴尾浜は団地があり、学校があり、リゾート施設もあるごった煮的な埋立地。目指すテッチャン食品はこういった施設の先、海に近い湾岸線高速道路の下にあった。テッチャン食品は大きな企業でテレビに度々コマーシャルを流している。午前11時に箱型の軽トラックを転がして門扉をゆっくり通った。止められるかと思ったが守衛は業者の車かと思ったのだろう、こちらの顔を見ただけで興味がないようにすぐにうつむいた。入ってすぐの駐車場に止めて事務室を探す。右手にそれらしい建物があった。事務室件受付だろうか。
 「長尾さんをお願いしたいのですが…」
 私は自己紹介をしてすぐに用件を切り出した。女性の事務員は席を立って事務長らしき人物に近づいて行った。私をちらちら見ながらしばらく2人で話している。
 「あいにく、長尾は重役会議中です」
 しばらく待ってもらえないかと私に頼んだ。
 「申し訳ないです。緊急なんですが…」
 「ご用件は?」
 「いえ、直接ご本人に…」
 いつ終わるかわからない会議を待つなんてまっぴらごめんだ。学校の授業は終わる時間が決まっているが大企業の重役会議。延長戦がありそうだ。しかし…、長尾さんが重役?とてもそのようには見えなかったが。人は見かけによらないの典型か。

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バー物語(フィクション)№225

 次の日、12時を過ぎても杉浦さんも長尾さんも来なかった。サムは10時からトップウインに来て剣菱を飲んでいる。
 「マスター、嘘ついたな。来ないやんけ」
 11時過ぎてからずっとブツブツ。サムは文句を言いながら酒を旨そうに飲んでいる。クレームをつけるのを喜びとする人種がある。サムはその類か。しかし。サムが不愉快なのもよくわかる。
 「おかしいなー。きっちり約束したし、来れなかったら連絡があってもよさそうなんですが…」
 「んにゃ。やっぱりマスターはぐるになって俺を潰そうとしたんや。わかったわ。ふん。青丸先生の知り合いと思って油断した俺がアホやったわ」
 言い訳できない。言い訳できないまま2時になった。
 「おう、トップの、どう落とし前つける」
 サムはふらふらになりながら席を立った。私はだまるしかない。飲み代をタダにして勘弁してもらった。この2人は最初に神亀の大吟醸で約束を破り、2回目は野田さんと下屋敷村さんとの約束も反故にした。今回で3回目か。さて、どうする。私は2回の失敗は許してきた。私に対しても他人に対しても。3回目。明日行動をおこそう。怒りを抑えながら洗い物に手をつけた。

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バー物語(フィクション)№224

 機嫌よくサムが帰った後、長尾さんが顔を出した。
 「杉浦がまた、戻ってきてあばれたらしいね。ごめんね。マスター」
 私はサムが手打ちをしたがっている事。それはここで2人で飲むことで完了することを伝えた。
 「それでね、長尾さん。こういうのは早いほうがいいと思うんだけど…。杉浦さんに明日、ここに来てもらえないだろうか」
 「ああ、言っとく言っとく。明日ね」
 結局夜の11時にトップウインに来てもらうことになった。ま、これで喧嘩から仲良くなってくれたら…。
 営業が終わってサムに会いに行った。長尾さんとした約束の時間を伝えて私は流れ者屋でビールと餃子をいただいた。サムも私のテーブルに腰掛ける。
 「マスター、ありがとう。やっぱり、人間は握手して別れないとな。青丸先生も言ってたな。後を振り返って恥ずかしい生き方はするなって…。投げ飛ばしたあいつにワビ入れないとな」 
 サムはとっても良い事を言う時ととんでもないことを発する場合と…、2重人格か。ニコニコ顔のサムにビールをおかわりした。

 

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  • Author:higemaster
  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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