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バー物語(フィクション)№207

 「あ、ビール」
 その男は2杯目のビールを飲もうとしていた。6月も末の早い時間の一見さん。下駄履きにジーンズ。独特の存在感をかもし出している。入ってきたときに私の顔を見てうなずいたのが気にかかる。以前に会ったことがあるのだろうか。記憶には自信があった。しかし、この男、思い当たらない。
 「あ、ジン」
 「はい。何にいたしましょう」
 「ボンベイサファイヤありますか」 
 「はい」
 「ストレートで」
 男はチビッとボンベイサファイヤをすすった。うまそうにではなくクールに舐めるといった感じ。
 「あ、ジン」
 2杯目のボンベイサファイヤ。その間一言の会話もなく。1杯に30分くらいかける。ゆっくり時間が通り過ぎるのを楽しむタイプなのかもしれない。
 「あ、カキピー」
 「あ、ジン」
 結局12時近くまでジンを5杯ほど楽しんで帰られた。常連さんに囲まれてもそのカラーに溶け込むようにジンをゆったりとしたペースで飲み続ける。バーに慣れているんだな、また、来られるのだろうか。遠ざかっていく下駄の音を聞きながら思ったものだった。
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ジャンル : 小説・文学

山下大樹独り舞台・Ⅲ Bon Voyage

2006年7月30日伊丹アイフォニックホールで開催されました。山下氏のピアノを聴くのは20年ぶりでしょうか。想えばお互いに年を重ねたものです。盛り沢山のプログラムでした。前半に取り上げられたシューマンの森の情景はしみじみとした演奏。この地味な作品を弾ける年になられたかと感慨深いです。先日、蝶々夫人を演じた並河さんとは県西の音楽科の同級生だったはずです。かたや華々しいステージ活動、かたや小さなホールで無料コンサート。しかし芸術、音楽は人に感動を与えてこそ存在価値があります。地味な山下氏の演奏活動ですが舞台の大きさに関係なく聴衆に感動を与え続けて欲しいものです。後半のリストは山下氏お得意の作曲家。彼の若い時にはスピードでぐいぐい押した演奏でしたが今日は細部に渡ってコントロールしようという姿勢がうかがえます。これも年輪のおかげ?ドビュッシーのプレリュードは秀逸でした。わざと順番通り弾かない試みで聴衆の関心をひいたのも成功しました。セヴラックは初めて聴いた作曲家です。ドビュッシーのような独自の語り口調を持たない自然の流れで作曲をする人だったんだなぁという印象を持ちました。今後の山下氏の中心になる作曲家である事を予感させます。

バー物語(フィクション)№206

 「どうしてって?」
 3人が私の答えを聞きたがった。
 「ふっ。情けない。暴力もダメだけど…、相手を倒せなかった…」
 「ひょひょひょ。何それ。人間は簡単に倒れませんよ」
 まっちゃんが笑う。
 「マスターは格闘家としての才能にめぐまれてないというわけやね」
 啓示が続ける。
 私は杉浦さんの事を思い出していた。もし、あのまま香露園浜に行ってたら…。空手の有段者なんて恥ずかしくて言えない。
 「まぁ。喧嘩は絶対ダメだけど、鍛えなおすわ。近々筋トレしよう」
 「ふぉふぉふぉ。3ヶ月続かないほうに500円」
 「じゃー、俺も1000円」
 「では、500円」
 「なんだなんだ。全員が3ヶ月持たないほう?よっしゃ受けたる」
 「マスター、せめてベンチプレス100キロは上げてね」
 「まかせなさい。3ヶ月で100キロね。受けた。皆、お金、損したね」
 「楽しみだなぁ。貯金しよう」
 「ふん。3ヵ月後にはムキムキマンになってるから…」
 私はその時100キロがどんなに重いかわかってなかった。それから1年間トレーニングセンターに通ったが70キロが精一杯。2000円を損してしまった。

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バー物語(フィクション)№205

 「駅員が近づいてきて…」
 警察を呼ぶかどうか男に聞いたらしい。是非呼んでくれという事になって啓示とまっちゃんは駅長室で事情聴取される事となった。
 「とぼけ通したよ。われわれは飲み屋で知り合ったばかりだって」
 「うんうん。でも啓示が、ねぇまっちゃんと言った時にはびびったなぁ。さっきまで赤の他人だったのに名前を呼ぶかね。ふふふ」
 まっちゃんは楽しそうに話す。
 「ま、マスターのことは知らない人ということにしたし、どこで飲んでたかも聞かれなかったしな」
 警察もこういう事は日常茶飯事でさっさと切り上げたかったのだろう。
 「フォアローゼスのソーダ割り」
 「俺も」
 2人はバーボンを飲みだした。
 「マスター、おとなしいね。反省してるの?」
 まっちゃんがこちらを覗き込む。
 私はキャビンマイルドに火をつけて考え込んだ。
 「何、顔にすだれをかけてるん?どこかなぐられて痛いんか?」
 啓示も私に話しかけた。
 「いいや。一発も殴られてない。全部かわした。が…」
 「わかった。もう、長田へ行けないのが悲しい?」
 まっちゃんがニタニタ笑ってからかった。
 「違うんだ。どうして…どうして…」

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バー物語(フィクション)№204

 リトル・オードリーには誰もいなかった。中山君がグラスを磨いている。
 「どうでした?今日、吟醸へ行かれたんですよね」
 「いい店だったよ。でも少しハプニングがあって…。ここは私のおごり。中山君、皆にジントニックを…」
 「ふぉふぉふぉ。少しハプニングだって。ねぇ。まっちゃん。かなりのトラブルだよね」
 「まいったまいった。もう、勘弁してほしいね」
 まっちゃんがガラムに火をつけてうまそうに煙を噴き出した。
 「ホントにごめん。で…」
 「あの、男、トイレに連れて行ったんよ」
 「そうそう、花屋さん、あの男は近所でお花屋さんをしてるんだって。お花に喧嘩。似合わねぇ。啓示さんがトイレで花屋さんを泣かしてた」
 トイレで泣かす?また啓示お得意の泣かし作戦か。
 「顔がね。マスターのせいで男の顔が汚れてしまった。拭いてやろうと思って。しゃべりながら汚れを落としてやった。この長田でドツキアイしてどうすんの。被災地のど真ん中。皆、復興に向けてがんばってるのに。あんたも色々あったんやろ。酒でも飲まんとやってられないわな。と…」
 「と?」
 私、中山君が同時に身を乗り出した。
 「オイオイ泣き出してね。涙も拭いてやった。あー、これで帰れると思ってトイレから二人で出ると…」
 「出ると?」
 また、私と中山君。

 

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  • Author:higemaster
  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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