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バー物語(フィクション)№160

 北斗の店内は暗い。スキンヘッドのマスターの顔がより怖く強調される。カウンター6席、後ろにボックス2つ、厨房に行く途中の廊下にもソファーがあった。私の3坪のバーの5倍はある感じだ。
 「今日は若い衆を連れてきました。ジントニックを3つ下さい」
 最初にジントニック。後は彼らが好きなのを頼むだろう。
 「なに、これ…。トップと全然違うなぁ」
 学が大きな声を上げた。私の事を二人に絶対にマスターと呼ぶなと、先生と呼べと釘をさしてあった。同業者と思われるのがいやだった。先生扱いされるほうが慣れている。
 「お気に召されませんか」
 マスターがやさしく学に話しかけた。
 学はそれには答えずに一気にジントニックを飲み干した。
 「ビールを下さい。泡なしで」
 学はトップウインと同じようにビールを飲みたいらしい。
 「うわっ。このビールも…」
 学は気を使ったのか今度は小声でつぶやいた。
 「あんまり文句言わないで。楽しまなあかんよ」
 私は諭した。それでも学はおつまみもまずいとぶつぶつと文句を言い続ける。
 「先生は何の先生ですか?」
 マスターが学に関心がないように話す。
 「はぁ。さる高校で」
 「高校ですか」
 学がその会話に入ってきた。
 「俺は高校時代にバナナの皮を乾かしてマリファナ代わりに吸ってた。あれは本当に飛べるのかなぁ」

 

テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

バー物語(フィクション)№159

 武庫川を越えると世界が違うとよく言われた。尼崎は比較的震災の影響が少ないと。しかし。ひどく被害を受けたところはたくさんある。阪急武庫之荘駅の南にL字に近く曲げてつくられたマンションがあった。震災でLの付け根から真っ二つにわれた。倒壊はしていないが近づくのもおそろしい。前に立つと今にもこちらに向かって倒れてきそうだ。当然その付近の道路は通行禁止になっているが。先日そのマンションのオーナーと称する男がトップウインにやってきた。わずかな酒代、払い渋って泣いていた。中藪啓示がなぐさめた。男はよりいっそう号泣した。どうやら啓示は人を泣かすのが得意、趣味のようだ。男は10分ばかり号泣してすっきりしたような足取りで帰っていった。L字のマンションを見るたびにその男と啓示のやり取りを思い出したものだった。
 めざすバーはそのマンションから東へ200メーター程行った路地裏にある。店名を北斗という。朝の5時まで開いていた。スキンヘッドの強面のマスターだが私の事を先生、先生といって慕ってくれた。まだ現役の高校教員。自己紹介もしていない。私の空気がマスターに先生と呼ばせたのであろう。
 

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

おでんでんの田植え

2006年5月21日、徳島県は佐那河内(さなごうち)で10代目のおでんでんの田植えに行ってきました。おでんでんは日本酒の名前です。漢字でお殿田と書きます。江戸時代、阿波藩のお殿様が食べるお米をここ佐那河内村の山のてっぺん近くの棚田で作っておりました。佐那河内村は私の母方の祖母の出身地です。偶然にも私のルーツの地で米を作って日本酒を作る会に大宗の藤枝肇氏に誘われました。2回目の田植えからの参加です。今回で9回目。快晴の中、小さな棚田の田植えが朝の9時から行われます。かつて、私達、大宗グループは徳島グループの足を引っ張っておりました。が、今は多くの経験をつんで強力な助っ人集団になっています。予定時間を一時間も早く修了しました。田植えが終わると楽しみの宴会。佐那河内村の料亭「虎屋」。ここの大将岩本さんは地元の山の幸を生かした日本料理を作ります。何が出たかは書けないような珍しい一品もありました。岩本さんと今夏、鰻を釣ってその場で料理をしていただく約束をして帰路につきました。

バー物語(フィクション)№158

 あらためて正行を見た。まだ、息は元には戻っていない。首をうなだれて肩を上下に大きく動かしている。よっぽど早く走ったんだろう。こういうのをどう表現するんだろうか。実直?いや違う。短絡、でもない。直線的と言うべきか。22才の正行はバイクに乗ってこける私を想像して助けようと思って必死で走った。追いつかないのがわかっていてもあきらめずに。
 「私の身の安全よりヤマハのバイクが心配だった?」
 「ち、ち、違います」
 その後は無言。正行はしゃべるのが苦手なタイプのようだ。自らが動いて人に理解してもらえるタイプだな。しかも行動はまっすぐ。わかりやすいが評価されにくい人生を歩むかもしれない。ずるい動きができないんだろう。この直線男は現在、私と組んで仕事をしている。『桜咲くころ』の店長。
 「ありがとう。正行くん。でも、私はエンデューロで走っていた男。このヤマハはパワー不足だ」
 「え?」
 正行と学は異星人を見る目で私を見ていた。
 「行きつけのバーが武庫之荘にある。一緒に来る?」
 「え?いいんですか」
 学はすぐに行く気になった。私は正行を見た。
 「ぼ、ぼくも、い、行きます…」
 バイクに乗せてくれたお礼。すぐに店を片付けた。

テーマ : 連載小説
ジャンル : 小説・文学

バー物語(フィクション)№157

 「ひー、ヒー、げー、ゲー…」
 正行が腰を折り曲げて息を極端に切らしている。ひょとして全速力で追いかけてきたのか。私は彼の息が整うまで数分間待った。
 「何故?追いかけた?」
 「マ、マスターが…、こ、こけると思って…、あ、あのバイク…、は、速いので…、え、エンジンを…」
 私は彼が言いたいことがわかったので途中でさえぎった。
 「エンジンをふかしすぎると回転が上がりすぎてコントロール不能に陥って転んでしまう。もしくは、コーナーで回りきれずに倒れてしまう?」
 「は、はい」
 「私は運動音痴に見える?」
 「は、はい。い、いえいえ」
 「追いかけてどうしようと思った?」
 「バ、バイク、こけたら、け、怪我が、お、重いし」
 「重いバイクの下敷きになった私を助けようと思った?」
 「あ、はい」

テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

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  • Author:higemaster
  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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