AX

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

バー物語(フィクション)№145

 中藪啓示の生活センスはかなり個性的だ。腐ってカビの生えているみかんを大事にかざったり馬糞の香りをわざとコーヒーにいれたり。こういうのに限って味オンチな独りよがりな輩が多い。山岳写真家?山岳文筆家?偽者くさい。
 「何か代表的な出版物あります?」
 「ん?俺が書いたやつか。そやな…、あ、マスターの目の前にあるガイドブック」
 それは北陸の旅行のガイドブックだった。これだったら家にあるかもと思うくらい一般的な本だ。
 「魚津のお寿司屋さんで…、ええっと…。あった。これこれ」
 啓示は開いて見せてくれた。なんと。お寿司をおいしそうに食べている女性は…
 「めるちゃんですか。この女の子」
 「どれどれ、そう。ここのお寿司屋さん、安くて美味しいよ。マスターも行ったらいいよ」
 めるちゃんは簡単に行けばと言うが。
 「魚津って富山のまだ向こうでしょう。遠いですね」
 「近い近い。スーパー雷鳥ですぐやんな」
 めるちゃんは啓示に相槌をもとめた。
 「うんうん。マスター、一緒に行こう」
 簡単に旅行に他人を誘う二人。本を書いてるのはわかった。写真も本物。
 「わかりました。機会があれば」
 軽く約束をして二杯目のコーヒーを頼んだ。

 
 
スポンサーサイト

テーマ : 連載小説
ジャンル : 小説・文学

バー物語(フィクション)№144

 「マスター、お待たせしました」
 コーヒーが出来上がった。少々のコーヒーが出てきても驚かない。姫路にカフェ・ド・ソロという抜群のコーヒー屋がある。教えてくれたのはかつての同僚、片山先生。そこ以上のコーヒーをまだ飲んだことがない。東京のカフェ・ド・ランブルにも行った。ソロの味が勝っていた。
 「どうかなぁ」
 めるちゃんは私の顔をのぞき込むように見ている。
 私はゆっくりとコーヒーカップに顔を近づけて行った。
 『ん!これは…。』
 「かすかにうんこのにおいが…」
 つぶやくように言った。
 「おおっ。マスターさすがやね」
 中藪啓示がコーヒーをすする。
 「馬糞の香がする豆をわざと入れてもらってるねん。アフリカの豆やねん」
 「え?わざわざ馬糞?」
 「そう。この馬糞の匂いが香りに奥行きを与えるねん」
 『ほんまかぁ』

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

バー物語(フィクション)№143

 「やー、マスター」
 啓示は隣の部屋から出てきた。
 「原稿に追われててね」
 いかにも徹夜してましたというような真っ赤な目をしていた。小さくあくびをして私の向かいに座った。
 「普通、きれいなものやかわいいものを置きません?玄関に」
 「みかん?」
 「はい。カビ生えてますよ」
 「ふぉふぉふぉふぉ。滅びのね…」
 「ホロビ?」
 「うん。そう。滅び、朽ちる、果てる、腐る、死ぬ…」
 「…………」
 「そういった美ってあると思わへん?」
 「はぁ」
 「生きるとか進むとか力とかそういうのとは対照的な美学があってもいいんとちゃうかな」
 中藪啓示はいつも大阪弁をしゃべる。これほど大阪弁が似合う男もめずらしい。
 「よくわからないなぁ」 
 「ふぉふぉふぉ。俺も本当はよくわかってへんねん。めるちゃん、俺にもコーヒー」
 よくわかっていない事はないだろう。議論が好きではないのかもしれない。酒を飲んでいるときよりも魅力的な男に見える。中藪啓示ファンは多いに違いない。
 

テーマ : 連載小説
ジャンル : 小説・文学

バー物語(フィクション)№142

 「山登りをなさるんでしょうか?」
 失礼ながら彼をマジマジ見てしまった。体重は90キロを軽く超えている。またはぐらかし?
 「うん。それと、記事も書く」
 詳しく聞いているとかなりの数の出版物を出している。100キロ近い体重をゆっさゆっささせてカメラをぶら下げて記事も書く?想像ができない。自分が想像する絵に無理がある。ま、明日、もう一度コーヒーを飲みに行けば真相がわかるだろう。それまでのお楽しみとしておこう。
 翌日。
 今度はドアーに鍵がかかっていなかった。ピンポンを押すとめるちゃんが迎えてくれた。挨拶をして中に入る。いきなり下駄箱の上の異様なものが目に入る。丸い小さな物体一面に青かびが生えている。しわだらけの田舎の道端にでも落ちていそうな…、ひからびたみかん。
 通されたのは応接間。中藪啓示はいなかった。
 「マスター、座っててね。啓二さん、呼んでくる」

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

バー物語(フィクション)№141

 「悪かったねぇ」
 中藪啓示がめるちゃんと一緒に入ってきた。店をオープンしてすぐの時間だ。
 「マンションの一室でコーヒー?」
 「ふぉふぉふぉ。以前は六甲でやっててん」
 『本当かどうかあやしい』
 「その言い方、啓示さんがしていたみたいやんか。マスター。私がしていたの」
 「んんん。俺がさしていた…」
 「違います。私が自分で店を六甲でしていたんですぅ」
 じゃれあいのような喧嘩を始めた。どっちでもいいんだが。
 「で、いつ行ったら美味しいコーヒーが飲めるんです?」
 「すまんすまん。明日だったら…、あー、多分大丈夫」
 『たぶん?』
 私は訊ねた。
 「中藪さんのご職業は?」
 「コーヒー屋。ふぉふぉふぉ」
 「それと…?」
 「写真家。ふぉふぉふぉ」
 「写真?ヌード?」
 「山岳写真」
 中藪啓示が初めてまじめに答えた。

テーマ : 連載小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

higemaster

  • Author:higemaster
  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
最近の記事
カテゴリー
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索
RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。