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バー物語(フィクション)№104

 「そりゃ、お客さん同士のトラブルはあるよ。西宮競輪があったときなんて店の中はごったがえすし…、でも結局泉さんがどっちを取るかじゃーないの。どちらがトップウインにとって大切なお客さんか泉さんが決めればいいんじゃないの」
 喫煙してもいい場所にわざわざ調子悪い人が来ることはないだろう、と西田氏は言い、ヒーローのマスターはどちらかを選べという。この先このようなトラブルは常にあると考えたほうがいい。大西さんだったら西田氏タイプだろうな。今日の場合、私が客で来ていたら、千秋さんの立場だったら国許さんがいる間煙草を控えていたに違いない。でも千秋さんはいやだと言った。さて。
 「さぁ、どうする」
 西田氏がニタニタ笑っている。どちらかを選択すべきと言うヒーローのマスターの考えが一般的だろうな。
 「決めました。お金をたくさん使う人を大切にします」
 3秒くらい沈黙の後全員が笑い出した。西田氏がカウンターをたたいて喜んでいる。
 「で、本当のところは?」
 西田氏がこちらをにらむ。あの顔。どれだけあの顔でしかられたか、また、励まされ勇気付けられたか。
 「1番に女性を大切にします。2番に貧乏な音楽家を大切にします」
 「えええええ?1番に貧乏な音楽家にしてよ」
 まっちゃんが両手をあわせて拝んだ。
 方向が決まった。女性が不快な思いをしない空間を作っていこう。音楽がすがすがしいモーツアルトのフルートとハープのための協奏曲に変わっていた。
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バー物語(フィクション)№103

 「まぁまぁと言ってるようじゃーだめだね」
 西田氏が続ける。
 「その点、大西さんはかっこいいな。寿司握ってても喧嘩になりそうなときにはカウンターを乗り越えて表に飛んで出てきたからな」
 大西さんは吾妻寿司の大将だ。そういえば…昔…、私が吾妻寿司で競馬新聞を見ながら寿司をつまんでいた時、隣の常連さんが、
 「ほほう、明日は仁川ですか。同じ目を私にも買ってきてくれませんか」
 その常連さんが財布に手を入れた瞬間
 「それは失礼と言うもんじゃおまへんか。博打は自分でやるもんだす。人様に馬券を頼む、それは了見がちゃいま」
 吾妻の大将はこちらがびっくりするぐらい大きな声でその常連さんを一喝した。私は1週間か2週間に1回行く程度の客だった。度々吾妻寿司を利用してくれてる常連さんに一喝。大西さんにとって事の善悪は店に来てくれている回数は関係ないようだった。それから私は大西さんの大ファンになった。
 「泉さん、男が煙草をやめてくれと言った瞬間判断しなくっちゃいけねーな。ここはレストランじゃねーんだ。そうだろう」
 西田氏の言い分はよく分かるんだが、あの場合…。
 ヒーローのマスターが何か言いたそうにこちらを見ている。
 「ヒーローではこのようなことないんでしょうか」
 

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バー物語(フィクション)№102

 「まぁまぁ」
 私はあわてて割ってはいった。
 「国許さん、そんな興奮なさらないで、千秋さん少し横にずれてあげたら…」
 千秋さんはこちらを同じようにジッと見て
 「俺はここで飲みたいんだよ。マスター」
 ぐっ。かわいい顔をしてオレって。
 「くだらねー。マスター、がっかりさせやがるぜ、まったく」
 千秋さんは煙草を灰皿に潰して消した。
 「ふん。帰ってやらー。いくら?」
 千秋さんは長い髪をかきあげながら帰っていった。しばらく沈黙が続いた。バッハのニ短調のチェンバロコンチェルトの第3楽章がその場の空気になじまなく流れていく。
 カチャ。ボッ。ふりむかなくてもわかる。西田氏が持つ聞きなれたジッポーの音。続いてガラムの香り。まっちゃんがガラムを吸い出したようだ。ふりむくとヒーローのマスターもマイルドセブンに火をつけるところだった。コーナーの3人がいっせいに煙草を吸いだした。国許さんはジムビームのライウイスキーを1杯だけ飲んで出て行った。
 「今のはまずいなー。泉さん」
 西田氏がしゃべりかけてきた。

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バー物語(フィクション)№101

 その日は西田氏、喫茶ヒーローのマスター、まっちゃんがL字のコーナーにかたまって飲んでいた。千秋さんは私の正面。そこにマスクをした国許さんが来られた。空いている席は千秋さんの左右だけ。
 「風邪をひいちゃって。ジムビームのライをお湯割で」
 国許さんはマスクをはずしながら千秋さんの右隣に座った。千秋さんは機嫌よくいつものように煙草をふかしながらサザン・カンフォートのライムソーダを飲んでいた。
 「すみません。煙草をやめていただけませんか」
 国許さんは千秋さんに頼んでいる。彼以外は全員煙草吸いだ。私は皆が煙草を控えるものだと思った。が、その考えは甘かった。
 千秋さんは国本さんをジッと見ている。
 「やだね」
 「喉の調子が悪いので」
 「おっさん、風邪ひいてんだろ。こんな所にくんなよ」
 彼女はいつも静かにサザン・カンフォートのライムソーダを飲むだけだった。私とほとんど会話らしきものをしたことがない。こんなセリフがはけるのか。びっくり。
 「なんだと。頼んでんだろ。頭にかけるぞ」
 国許さんはジムビームのお湯割を右手に持って高く上げた。
 千秋さんはまた、ジッと見る。
 「出来もしねーくせに」
 「なに」

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バー物語(フィクション)№100

 12月に入ると寒さが店内を襲ってくる。出窓を開けると心地よいのだが室温が一気に5,6度に下がってしまう。もう出窓を開けれない。必然的に煙草の煙がもうもうとしてくる。バーを始めて一月足らず。お酒を提供することには徐々に慣れてきた。が、お客様との会話やあしらい方がうまくない。困ったのはお客様同士のトラブルだ。
 千秋さんは早い時間に来られる20代の女の子。お酒がめっぽう強く、来たらサザン・カンフォートのライムソーダを何杯も飲む。また、ヘビースモーカーで瞬く間に灰皿が吸殻でいっぱいになった。サザン・カンフォートはアメリカのピーチ・リキュール。ジャニス・ジョップリンがこよなく愛した酒として有名だ。遅い時間に来るのんちゃんの明るく太陽のような輝きに対して千秋さんはやや暗さをにじませ、27歳でこの世を去ったジョップリンを連想させた。
 国許さんは東京に本社を持つ新聞社の記者。議論好きで隣に座ったお客様にご自分の考えを色々主張なさる。私には苦手なタイプだ。私はちゃらんぽらんで確たる主張を持たなく生きてきた。トラブルは二人の間でおきてしまった。
 

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  • Author:higemaster
  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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