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バー物語(フィクション)№63

 一番左端の席にまさちゃんがニコニコ笑ってこちらを見ている。オールドパーをオーダーしたお客様もまさちゃんも私の焦りに気が付いていないようだった。よし、まさちゃんに吾妻寿司で箸を借りに行ってもらおう。
 「まさちゃん」
 「はぁーい。なぁーに」
 「吾妻さんに行って割り箸をもらってきて」
 「え?どうして?なんで割り箸がいるの?」
 あぁ、どうしてまさちゃんは急いでいる時にそんな質問をするのかな。私は声をひそめてしかしきついニュアンスで彼女に言った。
 「水割りを作るのに使うの」と。
 「はぁーいぃ」
 彼女は店を出てすぐに走り出した。ほっ。何とか時間稼ぎをしようっと。私は氷を割ったり冷蔵庫を開けたり閉めたりして格好をつけていた。
 「はい。吾妻さんがこれ持って行ってって」
 まさちゃんが半分息をはずませながら私に近づいてきて右手を伸ばした。あぁ、なんと。それは。吾妻の大将が焼酎のロックを作る時に使う、小さな泡だて器。大きすぎます。それではグラスと氷の間に入りません。
 「いいから割り箸、もらって来い」
 あーあ。お客様全員にマドラーがないのがばれてしまった。
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バー物語(フィクション)№62

 私はお客様の目をじっと見た。彼もこちらをじっと見ている。50前後の紳士だった。知らない顔だ。私はお客様の目がオールドパーを見ているのを期待したのだが。私はオールドパーがどこにあるのか把握していない。しかたがない。お客様に尋ねることにしよう。
 「すみません。おきゃくさま。オールドパーはどこにありますか」
 彼はびっくりしたようにこちらを見ながら指差した。
 「あの隅にありますが」
 私はゆっくりと彼の指の方向をたどっていった。あった。比較的高い棚のところにあったので背伸びをするようにボトルを手に取った。まっさらのオールドパー。カウンターの左手に置いた。自分の顔が引き締まっていくのがわかる。タンブラーを自分の正面に置いた。氷を手早くグラスの大きさにカットした。オールドパーの首をカキッと音をさせてひねった。トクトクトクトクと軽やかな響きを立てながらタンブラーに流し込んだ。カットした氷をアイストングを使ってタンブラーに入れた。ちょうどいい大きさだ。ミネラルウオーターを入れる前にオールドパーと氷とグラスをなじませよう。マドラーを探した。どこにもなかった。心臓が口から飛び出しそうになった。まさか指で混ぜるわけにはいかないだろう。もう一度周りを見渡した。マドラーはどこかに出張されたようだった。

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バー物語(フィクション)№61

 午後7時を回っていた。オープン予定は6時だった。私は金槌を持って地べたを這いずり回っていた。11月10日。
 「まだー?」
 まさちゃんがのぞきこんで催促している。
 「…」
 私は答える時間ももどかしく作業を進めていた。まさちゃんは音楽仲間というか後輩と言ったほうがふさわしいか。西田氏のオーケストラの仕事をよく手伝ってもらっていた。
 「もー、オープンしよう」
 ヒーローのマスターが見るに見かねてといった感じで手早く片付けだした。
 「泉さん、さっさと着替えて」
 金槌を取り上げられた。
 「泉さん、お酒はどう並べるの?」
 「適当にお願いします」
 ヒーローのマスターは段ボール箱からボトルを取り出して棚に並べだした。終わると店内のゴミ類や大工道具を外に運び出す。私は服を着替えて手を丁寧に洗った。
 「泉さん、看板に灯を入れるよ」
 「お願いします」
 言いながらバックバーをながめた。ううむ。めちゃくちゃに並んでいる。どこに何があるかわからないなぁ。ええっと、スコッチはあそこか、ん?こっちにもあるなぁ。リキュールは、おお、この辺にまとまっている。ふむふむ。ま、いいか。しばらく確認作業をしてからからだをカウンターに向けた。
 『うわっ。満席だ』
 知らない顔ばかりがこちらを見つめていた。
 「よろしいでしょうか。オールドパーの水割りをください」
 
 

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バー物語(フィクション)№60

 オープンまで後3日になってしまった。西田氏に朝からカウンターの取り付けを手伝ってもらう。どう取り付けるのか。
 「ドリルでまず、ビスの太さにあわせて小さく穴を開ける。それから深さ5ミリくらい、太さ1センチの穴を開けてビス止めをする」
 「はい。それで?何のために2段階に穴を開けるんですか?」
 「1センチの丸棒を買ってきて埋めるためさ」
 言われてみたら簡単なことだが、私には思いつかなかった。
 「埋めてからかみそりを使って平らにして出来上がり。ニスを塗ったらわからなくなるぜ」
 ううむ。西田氏はホルンより大工のほうが向いていたのではと思ってしまう。手早く取り付けてニスを塗らなければオープンに間に合わない。吾妻寿司の大将も手伝いに来てくれた。
6

ドリルで穴を開けて取り付けているところです。左から西田氏、泉。手前に見える金属の箱がニッカさんからいただいた改造前の看板です。
固定できたカウンターをサンドペーパーで磨いている西田氏。しゃがんでいるのが吾妻寿司の大将です。
5

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バー物語(フィクション)№59

 持って来てくれた看板は馬鹿でかかった。大きさの指示をしていない自分が悪い。取り付けは自分でする事にした。3分の2の大きさに改造して取り付けようと思った。改めて看板を見る。shot bar TOP WIN、さまになっていた。
 shot barとは、簡単に言うとボトルキープはありません、という意味だ。1ショットで飲めますよ。高くつきませんよ、という意味が含まれるかもしれない。1994年当時ではたぶん西宮界隈では初めてのネーミングだったと思う。初めてにこだわった。西宮北口で初めてフレッシュフルーツをその場で絞ろう。初めてフローズンカクテルをメニューに載せよう。初めてBGMはクラシックをならそう。人がまだやっていないことが好きだった。ピアノを選んだのも男が誰もしていなかったからかもしれない。
 TOP WINのロゴは昔の教え子に頼んだ。京都芸大に進んだ佐々。美形のコントラバス弾きと言っていいだろう。誰でもいいから美術学部の友達に書いてもらってと頼むと数日で持ってきてくれた。数点ある中から一番地味なのを選んだ。
 思い出しながら大きな看板を眺めていた。金属のカットは時間がかかるだろうな。明日にしよう。7日の月曜日が終わった。2

写真は11月10日にオープンした時の小さくした看板です。左に見えるのがガンちゃんが取り付けてくれた窓。壁は白い漆喰です。

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  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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