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バー物語(フィクション)№39

 10万円入っていた。
 「どうしましょう」
 西田氏を見た。
 「覚えとけよ。忘れるな」
 「は?何をです?」
 「10万、借りたと思えばいいじゃねーか」
 「大金ですが…」
 「返すチャンスが来るさ。そん時返しゃーいい。気持ちよく使ってやれ。そろそろ玉不足だろ」
 のぶちゃんとは顔見知り程度の仲だ。10万円をいただくいわれはなかった。でも、西田氏の言うように借りたと思えば気が楽だ。いつか返そう。遠慮なく使わせていただこう。
 「どっか、工事現場で太い木材拾って来いよ。車、転がしてて気ついた所ねーかなー」
 「あります。武庫川の近くに一戸建てが数件工事中です」
 「ゴミあさりみてーでかっこ悪いかもしれねーが、使えそうなものどんどんもらっちゃえ。なーに、ゴミを持って行ってやるんだ。感謝されるぜ」
 ううむ。廃物コレクターの西田氏が言うと説得力があった。
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バー物語(フィクション)№38

 「ああ、のぶちゃん」 
 二人同時に声を発した。
 「外までつつぬけ。何けんかしてるの?」
 「いえいえ、別に…」
 「泉さんがボトルをいっぱ並べたいんだってさ。このせまい店に。やめとけって言ってたとこなんだ」
 のぶちゃんとは吾妻寿司でたまにお会いした。また、その縁でお座敷バーにもよく来てくれた。新地でホステスをしているらしい。普段見るととてもホステスさんとは思えない。顔も服装も地味なのだ。
 「まだ全然出来てないじゃないの。オープンまで前途多難ね」
 「11月初旬にオープン予定です」
 「いやー、無理なんじゃない」
 「はぁ…」
 無理かもしれない。本気で思えてくる。もう10月が終わるまで2週間を切っている。棚一つ出来ていない。壁にベニアを貼っただけ。
 「グラスやお皿を買う足しにして」
 のぶちゃんが白い封筒をハンドバックから出しながら言った。
 「がんばってね。楽しみにしている」
 言い残してさっさと現場から立ち去った。封筒は分厚かった。

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バー物語(フィクション)№37

次の日現場で西田氏が説明してくれた。
 「この柱にピカピカの金属を埋め込んで板を乗せよう」
 「5センチしかないですよ。持ちますか?」
 「ドリルで穴開けて丸い金属棒をはめ込むんだ。きれいぜ。いっつも磨いておけよ」
 「この角材がすかすかだったら?」
 「そのときゃー、棚は落ちるわな」
 「……」
 「心配するなって。そんな顔でこっち見るな。出来るって。」
 「西田さん、お座敷バーのボトルを並べようって思ってないですか」
 「え?そうじゃねーのか」
 「私はあの時のボトルの10倍は並べたいんです」
 「ばかやろー。町火消しのちょうちんじゃねーんだ。そんなに並べてどうする」
 「もういいです」
 私は西田氏と言い争いたくないので現場から出ようとした。その時
 「がんばってるわねー」
 妙齢の女性が入ってきた。

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バー物語(フィクション)№36

 こけしの店内はかなり広かった。こけしをたくさん並べてあるショーケースが目を引く。メニューはたくさんあって迷うが、よく見るとヴァリエーションメニュー。トンカツが1枚か、2枚か、卵は1つか2つか、カツを丼に乗せるのか別皿でもってくるのか、ご飯の量はどうなのかとか。セパレートを注文した。薄い豚肉だった。タマネギと玉子が絡まったタイプ。トンとじと呼ぶ店もあるだろう。カツ全体にタレが染み渡っていて柔らかい。西田氏は喜んで肉とご飯をかきこんだ。
 「西田さん、棚をどうやって固定したらいいですかね」
 トンカツを食べながらも頭の中は内装の事でいっぱいだった。
 「簡単簡単。細い柱があるだろう。そこに金属をつけて棚をのせりゃーいいんだ」
 棚を作ろうとする壁には最初から5センチくらいの細い角材が3本固定されてあった。その角材を利用するのか。
 「持ちますかね。ボトルを並べるとかなり重たいですよ」
 「持つ持つ。俺の頭にはもう出来上がってるぜ」
 西田氏は沢庵をポリポリ食べながらお茶をすすった。

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バー物語(フィクション)№35

 「どうして、緑なんだ?」
 西田氏はいぶかしげにこちらを見ている。
 「緑は進めでしょ。何ぼでも飲んでちょうだいっていう意味です」
 塚口のリックバーには縦置きの信号機が置いてあった。青は営業中、黄はラストオーダー、赤は閉店。私の店はラストオーダーはないよ、そんな軽い意味をこめて緑を選んだ。発光ダイオードを10個、電気コード、コンセント、スイッチ。必要な部品をレジに持って行く。
 「こけしっていうんだ。トンカツ屋」
 「近くですか」
 「ああ、久しぶりだ」 
 西田氏はパーツ屋を出てずんずん歩いていった。
 日本橋のメインストリートから東に少し入るとアサヒステレオセンターという老舗のオーディオ専門店がある。信頼のおけるスタッフがいろいろアドバイスをくれた。私は常にそこでオーディオ類を買っていた。『こけし』はその店のすぐ北にあった。大きな暖簾がかかっていて良く目立つ。今までそこに食べ物屋があるなんて知らなかった。単純ですぐに夢中になってしまう私。何かに関心があるとほかの事が眼にうつらないらしい。

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  • Author:higemaster
  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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