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バー物語(フィクション)№19

 お勧めのショートカクテルはホワイトレディーとマティーニの二本に絞った。ホワイトレディーはシェーカーを振る、マティーニはミキシンググラスでステアー。ショートカクテルの基本といっていいだろう。しかもこの二つは材料費が安い。ブランデーを使ったサイドカーは高くつく。
 8月いっぱいまでショートカクテルを作りまくった。どうにか格好がつくようになった。他のカクテルもなんとか作れた。しかし、なかなか鼎のマスターのようには決まらない。私が作ると締まりがないのだ。あれは、年季なのか才能なのか。
 カクテルをミキシンググラスで作るバーが塚口にあった。シェーカーを振るのはギムレットとギブソンのみ。古いスタイルを守っていた。五号橋線沿いにあるリックバー。私は分らない事があれば、度々質問に行った。若いオーナーバーテンダーの川口さんは親切に丁寧に教えてくれた。私にとって師匠は鼎のマスター、先生は川口さん。その気持ちは今でも変わっていない。たぶん川口さんに出会ってなければ今の私はなかったと思う。
 とうとう楽しかったお座敷バーを閉める日になった。やれやれという気持ちともうちょっと遊びたかったなーという気持ちが交錯する。
 
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ジャンル : 小説・文学

バー物語(フィクション)№18

 ブラックジャックのディーラーの中山君はいつも最終電車でやって来る。背の高いハンサムボーイ。カジノで蝶ネクタイをしてカードを切る。いかにも似合いそうな容姿だ。
 「泉さん、XYZ」…来た。ショートカクテルを目分量で作れるチャンス。レモン、コアントロー、ホワイトラム。鼎で最初にいただいたサイドカーのホワイトラム版だ。
 シェーカーを振った。思いっきり振った。カクテルグラスに注いだ。シェーカーに余った。
 『ぐっ、失敗した』
 「おいしい。いつもより甘くない。これくらいが好き」
 中山君はシェーーカーに余しているのを気にすることなくほめてくれた。カクテルブック通り作るとどうしても甘くなる。分っていた。好みに合わせて微調整。バーテンダーの腕かもしれない。彼は高槻で行きつけの老舗のバーがあると言う。そのせいか洋酒全般とカクテルに詳しかった。
 量を合わせるって難しいな。これからは、お客様にショートカクテルをどんどん勧めよう。実験台になってもらう。もっと誰か来ないかな。 私はマンネリ気味になっていたお座敷バーが楽しみになってきた。8月いっぱいでお座敷バーは閉める。後、一月足らずか。

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バー物語(フィクション)№17

 西田氏はお座敷バーでショートカクテルをかっこよく作った。計量しないでグラスにピッタリあわせる。鼎のマスターのように。もちろん味がまずかったら意味がない。西田氏に同じようにダイキリを作ってもらった。うまかった。よし、私もそのスタイルで作ろう。
 それまでは、カクテルブックに載っているレシピを正確に作っていた。しかも、カクテルブックにはグラスいっぱいに酒を入れるなと書いてあった。つまり、飲みやすいようにグラスより少なく入れるようにと。グラスいっぱいに入れるのはダサいと。
 目の前で素人の西田氏がグラスいっぱいに注ぐ姿を見て自分も無性にしたくなった。
 常温で置いてあるボトル、冷えてあるボトル、氷の状態、室温。すべて条件が違う中でシェーカーで振ったカクテルをグラスピッタリにあわせる。至難の業か簡単なのか。自分の担当の日にすることにした。

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バー物語(フィクション)№16

 「サイドカー頂戴」
 「サイドカーを…」
 鼎のマスターは静かな口調でカクテルの名前を復唱した。まず、レモンを半分スクイーザーで絞る。マーテル、コアントローと続けてシェーカーに無造作に入れた。かち割り氷を放り込む。複雑なそしてかなり早い振り方だった。本で見た上下上下の振り方とは全然違った。最後に大きく上に上げて一気にカクテルグラスに注ぐ。全部入れてすりきりいっぱい。
 「二口半」思いながら一気に飲んでしまった。
 うまい。こんなにショートカクテルが美味いものだとは知らなかった。京都にグラスホッパーという大きなバーがあった。そこでも私はカラフルなカクテルを飲んだ事があったにはあった。まずかった。カクテルは美味しくないものだと認識していた。
 「お代わり」
 「はいよ」
 2杯目はゆっくり飲んだ。泣きたくなるほど美味かった。カクテルにはまっていく自分がそこにいた。

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バー物語(フィクション)№15

 それから私はちょくちょく一人で鼎に顔を出すようになった。早い時間に行くとマスターはサントリーの角の封をカキッと切って水割を作った。営業中ずっとマスターはその水割りを飲んでいた。
 「どれくらい飲むんですか」
 「一本空くことが多いなー」
 「毎日?」
 「毎日。晩飯代わり」
 「え?ご飯食べないんですか」
 「片山君はよく、食べ物のことを言うが、男があれがうまい、これがまずいなんて言ってはだめだよ」
 マスターは煙草をくゆらせながら静かに話す。身長は165位。痩せ型。顔の造りも小さかった。食事をほとんどしない。納得させる体型だった。結局これが彼の命取りになる。
 私は少しずつカクテルというものがわかってきた。長いコップに入れるロングカクテル、逆三角形のグラスに入れるショートカクテル。
 カクテルに関する書物も読んだ。ショートカクテルはふた口半で飲む。ふーん。よし、今度鼎に行ったときにショートカクテルを飲むぞ。それまで私は最初に飲んだテキーラサンライズばかり飲んでいたのだった。

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  • Author:higemaster
  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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