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バー物語(フィクション)№298

 公団の担当者は難しい顔をした。
 「トイレを別箱で…。どうしてもですか?」
 「私が考えるにエレベーターの斜め向かいに空きスペースが出来そうです。そこに…」
 「ううむ。即断できないのでお時間を下さい。それより、もっと難題がこの4段の棚ですね」
 私の図面を見て腕を組んだ。何が難しいのか私にはわからない。実際、私は自分で3段の棚を作った。棚は真鋳の棒で支えている。
 「何がネックになってるんでしょうか」
 「壁が耐えれるかどうか…」
 私は説明をした。現在、棚を金属棒で支えている。今回も出来るのではないかと。
 「金属ですか…。これも宿題ということで。で、カウンターの後ろにもカウンター?」
 私の小さなバーは入りきれないとき、お客様は立って飲んでいた。気の毒なのだがしかたない。引越し先が同じ席数なら、またおこりうる。立ち飲みスペースを確保したかったのだ。
 

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

バー物語(フィクション)№297

 その日の早い時間に真鍋社長は約束通り店に来てくださった。案内してくれた女性といっしょに。
 「ここに置くんですか?」
 「いえいえ。新しい店舗が甲風園に出来ます。そこに置きたいんです」 
 どうやら真鍋社長は少しそそっかしいようだ。しかしニコニコ笑いながら色々な体験談をしゃべってくださる。この人としゃべると誰でも好きになってしまうだろう。実際私も2回しかお会いしていないのに好感を持ってしまった。
 「そうかそうか、新しい引越し先にね。ソーダミルをね。ガン2丁といっしょうにね。うんうん。あまりお金をかけたくないでしょ。わかるわかる。状態のいい中古を探してみるから待ってなさい。うんうん。きっといいのが見つかる。うんうん」
 3坪の小さなバーを見てこいつからは金を取れないと思ったのか、もともとお人よしなのか、まぁ、私にとって安いにこしたことはない。
 真鍋社長はビールばかり5杯飲んで帰られた。見つかったら連絡すると言い残して。

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バー物語(フィクション)№296

 「よっこらしょ」
 社長が立ち上がった。女性事務員は笑顔を見せながら立ち去った。
 「ソーダミル?」
 「そういうんですか?炭酸を作る機械」
 社長は身長160センチくらい。身体も丸っぽいし顔も丸っぽい。
 「どこでお使いになる?」
 私は今のバーの位置と引越し先の店舗を説明した。北口は詳しいのかすぐに理解してくれた。
 「カウンター8席の店でのう。うちの機械を使ってくださるんか」
 「おいくらくらいでしょうか?」
 使いたいが使うとは決めていない。値段を聞いてから判断したかった。
 「値段か。そんなん気にせんでよろしい」
 『はぁ?タダでくれるんかぁ?』
 「確か中古の出ものがあったはず。ガンは?ガンは持ってるか?」
 「いえ、ガンもセットでお願いします。普通の水とソーダ水が出るようにしたいんです」
 「おう。そうかそうか。用意したる。いついるん?」
 「新店舗は設計の段階です。早くて8月中旬かと…」
 「名刺交換しよか?」
 「失礼しました。泉と申します」
 「うん。裏に地図があるな。ふむふむ。わかった。今日行くわ」
 結局値段は聞けずじまい。真鍋社長自ら機械の整備をするだけはある。今会って今日、店に来てくださるという。まずは行動してから判断するタイプかもしれない。

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バー物語(フィクション)№295

 甲子園2番町にあるニットクの会社はすぐにわかった。事務室は2階にあった。ドアーを開けると数人の事務員がいっせいにこちらを向いた。大きな会社だと思っていたが事務室は意外に小さい。
 「何か?」
 目のくりっとした美しい女性だった。私のような訪問者はめったにいないのかもしれない。戸惑ってる様子がうかがえた。
 「ソーダを作る機械を探してるんですが…」
 「ああ、では、ここを出て…。ご案内します」
 事務室の裏手に導かれた。民家のようだ。所狭しと中古のビールサーバーがころがっている。地べたに座ってビールサーバーと格闘している初老の工員がいた。小太り、頭の毛が薄い。いかにも頑固者そうな体型と顔つき。
 『ううむ。こんな部下がいたら上司はやりずらいだろうな。町工場に多そうなタイプか』
 「社長、こちらの方がソーダを作る機械をお探しとか…」
 「うん?」
 しゃがんだまま小太り男がこちらを見た。
 『ひゃー。社長さん?社長自ら機械の整備?』

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バー物語(フィクション)№294

 新店舗の設計のメインはバックバー。つまり、ボトルを置く棚。自分がギリギリ届く高さを最上段にして4段のひな壇を設計した。ボトルを軽く300本は並べることができる。このあたりのバーにない質の高いシングルモルトを多数並べよう。その下に台下冷凍冷蔵庫。余ったスペースにグラス専用洗浄機。パッパッと決まっていく。次はカウンター。昔の鼎のような低いカウンターに魅力を感じつつ店舗の狭さを考えて今まで通りの高いカウンターにする。ビールサーバーは空冷式。カウンターの下にも台下冷凍冷蔵庫。水周り。はて、水道とシンクの設計で手が止まった。
 「すみません。川口さん。そちらにガンでソーダ水が出ますね。メーカーさんのお名前を教えていただけません?」
 私は塚口にあるリックバーのマスターに電話をかけた。すぐに教えてくださった。『ニットク』だと。
 川口マスターはソーダを瞬間的に製造してお客様に提供するのは不経済だとおっしゃっていた。マシーンも高いのだろう。しかし、私はそのマシーンが無性に欲しくなった。まっちゃんは最近のウイルキンソンは圧が低くなったと嘆いていた。気のせいかもしれないし本当かもしれない。ソーダをいつも作りたてで提供できれば圧が低いという苦情はなくなるはず。私は電話帳でニットクの住所を調べた。なんと、甲子園。このすぐ近くだ。

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  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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