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フィクション★ハタッチⅡその58

 水井は、中畑の言いたいことが理解できた。2通も投書をして、教員復帰を妨げようとした人物。それは、水井門下生に他ならない。
「ハタッチよ。誰かなぁ」
「俺にはわかりません。でも、先生の指導がきつすぎて、レッスンをこれ以上受けるのが死ぬほどイヤだった子ではないんですか?」
「そんなん、おったかなー」
「先生が、2学期途中で学校に戻ってきて、態度がおかしかった生徒、いませんでした?」
 中畑の質問に水井は即答できなかった。水井自分が一番避けたい、信じたくない方向に向かっている。沈黙は30分にわたった。

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

フィクション★ハタッチⅡその57

「2通、来たんでしょ。手紙」
「あぁ」
「しつこいですね」
「うん、執拗、粘着…」
「1通目で、先生、病気を理由に休んだんですね」
「そう、よく覚えてるね」
「病気が治って復帰されたらイヤな人物って誰でしょう?」
「ハタッチよ。いやな事答えさせるなよ。もう、ええやん」
「先生、俺も刺されたのと同じです。俺の名前も書かれていたんでしょ」
「ふー。酒がまずくなる…」
「水井先生、現実から目をそらさないで下さい」
「おい、中畑。20才になったら急に大人になったな。俺に命令か?」
「すみません、先生。つらいのはわかります。でも…」
「わかったわかった。ありがとう」

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フィクション★ハタッチⅡその56

 ここで、中畑が言う講師控室とは音楽科専用の校舎の1階にある職員室のことである。鉄筋で建てられた2階建ての校舎。音楽棟と校内では呼ばれている。1階はすべて小さな個人レッスン室。2階はソルフェージュや楽典の授業が行われるグランドピアノ付きの教室が2つ。他、合唱室と合奏室がある。1学年40人の音楽科の生徒たちだけが使う贅沢な校舎。
「ま、仲のいい先生たちと雑談するくらいかな」
「休憩時間にでしょ?」
「そう、5,6分か、それぐらい…」
「今日、お昼のお寿司屋さんで女の人怒って帰ってしまいましたね」
「ふむふむ、それで?」
「いくら水井先生が嫌いで、頭にきても、講師控室から出たら終わりだし、それにそんなに深くしゃべる時間もないでしょ」
「だね、話はこれからどこに行く?」
「先生」
「なに?」
「お酒…」
 二人は菊姫を空にしていた。
「大将、浦霞2合。最初に戻るわ」

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フィクション★ハタッチⅡその55

 ここで、中畑は黙り込んだ。沈黙が続く。
「なんや?どうしたんや?」
「先生」
「ん?」
「水井先生に学校を辞めさせる発想って…。どう思います?」
「どう思うって、そんなん嫌いな人物やから、辞めさせてしまえと…」
「そうでしょうか。同僚の先生が、水井先生を本気で辞めさせようとするでしょうか?」
「……。何が言いたい?」
「先生同士って、講師控室でどんな感じです?」
 ここで、水井は中畑が何を言いたいのか、読めてきた。

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フィクション★ハタッチⅡその54

「早いなぁ。あっという間に1年経ったなぁ」
「ええ、でね、先生…」
「もうええわ。どうでもね。刺された。背中から…。油断って言うたらダメなんでしょけど…」
「最初、生徒かと…。違いました?」
「あぁ、東田先生と吾妻寿司で、そんな話した。でも、ハタッチが違うって言ったよな。俺らの仲間には水井を刺すヤツはいないって…」
「ええ。それで同僚ではないかって、水井先生、おっしゃいました」
「うんうん。今でもそう思っているよ」

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  • Author:higemaster
  • 桜咲くころ=淡路島の地鶏焼きをメインに熊本直送馬刺し、鹿児島の親鶏、黒毛和牛のてっちゃん、ほか、おいしい一品料理を楽しめます。また、日本酒、焼酎、ワインがリーズナブルに楽しめます。
    ピアノバー・トップウイン=1935年製の古いスタインウェイのグランドピアノがたまに鳴ります。ワインを中心にカクテル、シングルモルト、日本酒、焼酎等できるだけ品質の高いお飲みものをそろえるように努力いたしております。
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