フィクション★ハタッチその26
入試当日。
どきどきすることもなく、試験会場のドアを開いた。今日弾く曲はバッハの平均律第Ⅱ巻第2番ハ短調。プレリュードはエチュードみたいな曲だ。16分音符を破綻なく弾く。決して機械的にならず。フーガはそれとは対照的にゆったりと歌う。静かな歌だ。教会のオルガン、しかし、間近に聴こえるのではない。そう、教会の外に漏れ聴こえるような、抑揚が少なく…。神経を使うメロディー。
審査員に向かってお辞儀をする。コンサートではない。あまり深く長くしない、簡単に。椅子の高さの調整をする。座る。頭の中ではすでにプレリュードのテンポが刻まれている。左手のスタカート、右手の細かな動き、重すぎず軽くなりすぎず…。うんうん、いい調子で弾き始めた。
「コツコツ」
机をたたく音がした。気のせいか。
「コツコツ」
また、机の音。
「はい。弾くのをやめてください」
命令された。
「こちらに来てくれますか」
フィクション★ハタッチ完
引き続きフィクション★ハタッチⅡが連載されます。
どきどきすることもなく、試験会場のドアを開いた。今日弾く曲はバッハの平均律第Ⅱ巻第2番ハ短調。プレリュードはエチュードみたいな曲だ。16分音符を破綻なく弾く。決して機械的にならず。フーガはそれとは対照的にゆったりと歌う。静かな歌だ。教会のオルガン、しかし、間近に聴こえるのではない。そう、教会の外に漏れ聴こえるような、抑揚が少なく…。神経を使うメロディー。
審査員に向かってお辞儀をする。コンサートではない。あまり深く長くしない、簡単に。椅子の高さの調整をする。座る。頭の中ではすでにプレリュードのテンポが刻まれている。左手のスタカート、右手の細かな動き、重すぎず軽くなりすぎず…。うんうん、いい調子で弾き始めた。
「コツコツ」
机をたたく音がした。気のせいか。
「コツコツ」
また、机の音。
「はい。弾くのをやめてください」
命令された。
「こちらに来てくれますか」
フィクション★ハタッチ完
引き続きフィクション★ハタッチⅡが連載されます。
スポンサーサイト