「あまりにもヒステリックにギャーギャーわめくので…」
「わめくので?それで?」
「ほっぺたを…」
「ふむ。ほっぺをなでた?」
「いや、パチンと…」
「はぁー。パチンとやっちゃいましたか」
「いや、ほんの軽くなんだよ。わかるだろ?」
「いえ、現場にいないのでなんとも…」
「それを全治一週間だなんて…」
全治一週間の怪我をさせたので治療代よこせと言われたらしい。アホらしくて聞いてられない。ほんまに痴話げんかのレベルだ。
市野先生は厳しい指導で有名だ。あまりにも厳しすぎて体に変調をきたす子が出るくらいだった。半年前の夏休み、宇崎先生のご紹介でと二人の高校生が訪ねて来た。二人とも神戸女学院志望の高校2年生。一人は顔面の痙攣。いわゆるチック症。もう一人は円形脱毛症。母親もついてきて、私に何とかしてくれと頼まれた。
「わめくので?それで?」
「ほっぺたを…」
「ふむ。ほっぺをなでた?」
「いや、パチンと…」
「はぁー。パチンとやっちゃいましたか」
「いや、ほんの軽くなんだよ。わかるだろ?」
「いえ、現場にいないのでなんとも…」
「それを全治一週間だなんて…」
全治一週間の怪我をさせたので治療代よこせと言われたらしい。アホらしくて聞いてられない。ほんまに痴話げんかのレベルだ。
市野先生は厳しい指導で有名だ。あまりにも厳しすぎて体に変調をきたす子が出るくらいだった。半年前の夏休み、宇崎先生のご紹介でと二人の高校生が訪ねて来た。二人とも神戸女学院志望の高校2年生。一人は顔面の痙攣。いわゆるチック症。もう一人は円形脱毛症。母親もついてきて、私に何とかしてくれと頼まれた。
マンションのチャイムを鳴らす。
「やー、しばらく…」
決まり文句のような挨拶と握手。
「何がおこったんです?」
私は単刀直入に宇崎先生にたずねた。
「痴話げんかみたいなものを…、大げさに…」
「誰とですの?」
「市野先生、芦屋の…」
市野先生は芦屋にお住まいの女流ピアニスト。アシュケナージが来日の折に練習ピアノを提供した先生だ。大阪芸大でも教えておられる。門下生に天才的な小学3年生のかわいい女の子がいた。宇崎先生の指揮でハイドンのピアノコンチェルトを弾いたという。その子の演奏は聴いた事はないが、たいへん利発な子だ。なんでも弾けますよ。目がそう語っている。
「その市野先生を?なんです?」
せっかちすぎるかわからないが、早く真相を知りたかった。
「やー、しばらく…」
決まり文句のような挨拶と握手。
「何がおこったんです?」
私は単刀直入に宇崎先生にたずねた。
「痴話げんかみたいなものを…、大げさに…」
「誰とですの?」
「市野先生、芦屋の…」
市野先生は芦屋にお住まいの女流ピアニスト。アシュケナージが来日の折に練習ピアノを提供した先生だ。大阪芸大でも教えておられる。門下生に天才的な小学3年生のかわいい女の子がいた。宇崎先生の指揮でハイドンのピアノコンチェルトを弾いたという。その子の演奏は聴いた事はないが、たいへん利発な子だ。なんでも弾けますよ。目がそう語っている。
「その市野先生を?なんです?」
せっかちすぎるかわからないが、早く真相を知りたかった。
カラヤンをバッサリ切る宇崎先生。天候によって気分が大きく振幅するようだ。雨が降る夜は気分がめいるようで、電話がよくかかってきた。
『宇崎…』
もしもしや挨拶は抜きで、いきなり名前を名乗る電話。これといった話は無い時が多かった。が、金曜日や土曜日の夜だと『泊まりに来ない?』と誘われる。1980年当時の国鉄は新快速がなかった。姫路から大阪まで2時間ほどかかる。行っても譜面の整理をするぐらいで、軽く食事をして寝るだけだった。朝、起きてパンとチーズとコーヒー。何故、行ってしまうかわからない。何回か繰り返すうちに自然と4月からオーケストラに入る話になっていた。
で、2月の『雲行きが…、オケのメンバーが、騒ぎ出して…』の宇崎先生からの電話。週末に大阪に行く約束をして受話器を置いた。
『宇崎…』
もしもしや挨拶は抜きで、いきなり名前を名乗る電話。これといった話は無い時が多かった。が、金曜日や土曜日の夜だと『泊まりに来ない?』と誘われる。1980年当時の国鉄は新快速がなかった。姫路から大阪まで2時間ほどかかる。行っても譜面の整理をするぐらいで、軽く食事をして寝るだけだった。朝、起きてパンとチーズとコーヒー。何故、行ってしまうかわからない。何回か繰り返すうちに自然と4月からオーケストラに入る話になっていた。
で、2月の『雲行きが…、オケのメンバーが、騒ぎ出して…』の宇崎先生からの電話。週末に大阪に行く約束をして受話器を置いた。
「芸術性の高い演奏、フルトヴェングラーの音楽は常人の域からはるかに高い所にあった。打点がどうのとか、拍がなんとやらとか、今のオーケストラの連中はすぐにそういった事を言う。棒の先からほとばしるのは音楽のエネルギーだ。評論家連中でさえアホな指揮者の棒さばきが云々と、幼稚な事を言う。棒さばきと真の音楽とは全く関係が無い」
私も含めて皆さん、宇崎先生の話に聞き入る。
「音楽を深く理解する指揮者からこそ、作曲家の真の内面をえぐりだせる。そういった指揮者が棒を振るとオーケストラの音そのものが変化する。フルトヴェングラーと行動を共にしたベルリンフィル、彼らはフルトヴェングラーの後、カラヤンで満足出来たんだろうか。情けない、誰一人としてカラヤンに異を唱える者はいなかった」
「カラヤンはつまらないですか?」
私は質問した。
「つまらんね」
私も含めて皆さん、宇崎先生の話に聞き入る。
「音楽を深く理解する指揮者からこそ、作曲家の真の内面をえぐりだせる。そういった指揮者が棒を振るとオーケストラの音そのものが変化する。フルトヴェングラーと行動を共にしたベルリンフィル、彼らはフルトヴェングラーの後、カラヤンで満足出来たんだろうか。情けない、誰一人としてカラヤンに異を唱える者はいなかった」
「カラヤンはつまらないですか?」
私は質問した。
「つまらんね」
山畑誠ピアノリサイタル
2009年6月26日(金)
於:芸術文化センター小ホール
ハイドン:ピアノソナタ Hob.XVI:27
ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」
ショパン:華麗なる大円舞曲 作品18
夜想曲作品27-2
幻想曲作品49
ヒナステラ:ピアノソナタ第1番作品22
山畑誠氏はショパンの死んだ年に近くなってきた。初めて会ったのは彼が高1の時。あれから20年ちょい。光陰矢のごとしとはこの事か。第2部からのショパン、ヒナステラは文句なしの立派な演奏。聴衆を興奮させるほどの名演だった。対して古典派はドイツ、ウイーンの大先輩達には及ばないところがある。大器になるためには乗り越えなければならないハードルであろう。超一流のピアニストとしての今後の成長に期待する。
2009年6月26日(金)
於:芸術文化センター小ホール
ハイドン:ピアノソナタ Hob.XVI:27
ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」
ショパン:華麗なる大円舞曲 作品18
夜想曲作品27-2
幻想曲作品49
ヒナステラ:ピアノソナタ第1番作品22
山畑誠氏はショパンの死んだ年に近くなってきた。初めて会ったのは彼が高1の時。あれから20年ちょい。光陰矢のごとしとはこの事か。第2部からのショパン、ヒナステラは文句なしの立派な演奏。聴衆を興奮させるほどの名演だった。対して古典派はドイツ、ウイーンの大先輩達には及ばないところがある。大器になるためには乗り越えなければならないハードルであろう。超一流のピアニストとしての今後の成長に期待する。




